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法務技官の戦場

元法務技官(矯正心理専門職)が仕事についてあれこれ語るブログ。

法務技官の仕事②~心理職と公安職~

法務技官

 

すいません,おすすめの参考書の紹介の前に,ちょっと雑談を。

 

法務技官という仕事は,様々な意味で特殊だと思います。もちろん,余り世間的に知られていないという意味でもそうですが,この話を少し掘り下げたいと思います。

 

 

突然ですが,脳男という映画をご存知でしょうか。

(以下,ネタバレがあります。ご注意を!!)

 

脳男 [DVD]

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あらすじは置いといて,この映画,実は作中の殺人犯を精神鑑定するシーンがあるのですが,その時,精神科医(と思われる人)が連行されてきた被疑者の手錠を解くように言います。

この犯人は,凶悪なテロ事件を起こして逮捕された後,警察署内ですれ違った全く無関係の事件の犯人に突然襲いかかるという,とても凶暴な人物なのです。

そんな人物の精神鑑定を依頼されました。どうでしょう? 仕事とはいえ,怯みませんか?

ところが,作中のこの精神科医が取った行動は,まず拘束を解き,その後は犯人として扱わず,対等な人間として丁寧な口調で接するというものでした。

これを見ていて,これこそ心理職だなと思いました。

心理職は,ラポールを重視します。拘束された状態の被疑者にいくら心理検査をやっても,まともな結果を得られるはずがありません。

この場合,自分の身の危険は二の次なんですね。

 

 

法務技官という仕事は,まぁわりと特殊な仕事と言ってもいいと思うのですが,

特に,心理職でありながら公安職,公安職でありながら心理職というところが変わっていると思います。

公安職は余りイメージが湧かないと思うのですが,警察官みたいなものです。公共の安全のために活動するのですね。

法務技官が相手にするのは非行少年や犯罪者です。公共の安全のために,保安には気が抜けません。

例えば,法務技官は襲いかかってこられても制圧できるよう,護身術を学びます。全員が学びます。警察官みたいなものですよね。

 

 

で,この心理職と公安職という2つの立場は,しばしばお互いに相容れないところがあります。

分かりやすく,ロールシャッハ・テストでたとえましょう。

ロールシャッハ・テストとは,心理検査の一つです。アメリカでは投影法そのものが時代遅れと一部で言われているようですが,法務技官は未だにけっこう使います。

ロールシャッハ・テストには,様々な流派というか,やり方があります。その中の包括システムというのは,施工法が細かく決められています。

問題なのは,検査者(テストする人)が被検者(受ける人)の真横に座るというやり方です。

これは,保安的には危ないとされています。基本的に,被収容者の真横に座ることはありません。

しかし,包括システムは厳密に施工法が決められており,それを破ってはいけないとされています。同じ手順でやらないと,テストの信頼性が損なわれ,科学的なデータとして活用できないからです。正面から向かい合わせでやった時と真横に座った時では,被検者の反応が違うので,統一しないと意味がないんですね。

そこまで細かくなくてもいいんじゃないか……と思われる方もいらっしゃるかと思いますが,これは重要なことです。まさしく,投影法の弱点の一つは,科学的なデータとしての信頼性が低いことだからです。

 

結局ロールシャッハ・テストを包括システムで実施する時,法務技官はどうするかという話なんですが,これは人によります。

中には,保安面を重視して,科学的信頼性を失っても対面や直角の角度で実施する人もいます。逆に,科学的信頼性を重視して,必ず真横で実施する人もいます。

ただ,やはり法務技官は保安的な意識が染み付いているので,真横でやるのはなかなか勇気がいります。いざ,襲ってきたらどうしようとか,逃げられたらどうしようとか。

 

これはあくまで一つの例で,こういうことがたくさんあります。

そういう,大半の心理職が悩まなくてもいいことに悩み,大半の公安職が気にしていないことを気にする,それが法務技官の特殊なところの一つなのかなと思います。